文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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2012年 10月 30日 ( 1 )

心に残す話

 最近直接お聞きして、心に残ったお話をふたつ紹介します。

 本学では12月4日に秋期特別公開講座を開催し、染織研究家の岩立広子氏をお招きして「布をめぐる旅~インド・アジア諸国の布の豊かさを未来に繋ごう~」という題でご講演いただきます。岩立先生は現地の人々の協力により蒐集された世界各国の優れた染織品を、一般に向けて展示・紹介するため岩立フォークテキスタイルミュージアムを設立され、その館長もされているのですが、今回の公開講座をお願いするに際して先生にご挨拶に伺ったとき、その展示を見せてくださったのです。
 
 インドを中心に世界各国の布や、布で作られたさまざまな服飾品が展示されていましたが、その中に、色とりどりの糸で織られた小さな可愛いポーチがありました。その近くには写真がありましたが、色黒の肌にやはりさまざまな色の糸で織られた腰巻きをまとった女性が映っていました。ポーチも腰巻きも、その色合わせといい、模様といい、複雑でそしてとても美しいものでした。

 このポーチを見た瞬間に私がふと思ったのは「これほしいな、どこかで売っていないかな」ということです。すると、岩立先生はこのようなことを説明されました。

「この地域に私は実際に行きましたが、土地がやせて非常に貧しいところなんです。わずかな作物しか取れないため、現金収入が限られているんですね。そして、取れたわずかな作物を売って、これを作る材料を買うのです。もちろん、一度でこれを完成できるほどの量を買えるわけではないので、少しずつ買って、少しずつ作る。一代でできなければ、その子孫が続けて作っていく。そして、代々それを受け継ぐのです。食べることも大変な人たちが、このように美しいものを作るために、それを持つために代々このような営みを行なっているわけです」
 

 ショックを受けました。自分が浅ましい視点でしかそのものを見ていなかったと気づいたためでもありますが、強く感じたのは、人にとって美しいものというのはどれだけの価値があるのか、自分はそこまでの歴史と感情をになうものを持っているかということでした。また、持っていたとしてもそれを彼らのように正しく敬えるのか、そのものがもたらす喜びを正しく感じられるのだろうかということについても我が身を振り返らざるを得ませんでした。

 もうひとつのお話です。

 先日、本学の大学院生活環境学専攻で行なわれているオムニバス授業に、AARJapanの近内みゆきさんが来られて講演をされました。AARは「難民を助ける会」という名前で設立されたNPO法人ですが、今は各国で国際支援の活動をしています。彼女は2011年のトルコ地震の支援のために現地に行き、そこで泊まっていたホテルの倒壊に巻き込まれました。国際支援活動のお話とともにその時の話もしてくださったのですが、私が最も心に残ったのは、彼女ががれきの中に閉じ込められた時の判断についてのお話です。

 5階建てホテルの4階の部屋にいた彼女は、余震のため5秒で崩れ落ちたホテルの中に閉じ込められました。気づいた時にはがれきの中に埋もれ、目にも耳にも口にも土砂が詰まっており、五感がきかない状況だったそうです。そういう場合はまず目が使いたくなる、見たくなるものなんですね、と言われてから、次のような内容を話されました。

「目を開ける前に考えました。もし、ここで目を開けて、周りの状況が絶望的なのを知ったら、私は落ち込んでもう助かる意欲を失ってしまうかもしれないと。でも、私は、どんな状況でも落ち込まない、と自分に約束して、目を開けてみました。」

 結局開けた目で見た状況を冷静に判断し、さらに目を閉じ耳に集中して得た情報からも助かる可能性を探っていった近内さんは、無事救出されます。

 「どんな状況でも落ち込まない」と自分に約束できる、ということは、その時の絶望や恐怖に心がとらわれていなかった、または、とらわれないように努力していたということだと思うのです。逆に言えば、心が「もうだめだ」と決めつけてしまおうとすることが、人の判断を鈍らせ、結果、可能性を失わせていくのだということを彼女のお話から学びました。

 きっと私はこれらの話を忘れないでしょう。話として意識の上にのぼらなくなっても、このような生き方があったという記憶は、いつか私が行き詰まって助けを必要とするとき、とるべき道に迷うとき、また、間違った判断に傾きそうになったときに、心を下から支えてくれる気がします。


*岩立フォークテキスタイルミュージアムのHP
  http://www.iwatate-hiroko.com/index.html

*文化学園大学 秋期特別公開講座
  「布をめぐる旅~インド・アジア諸国の布の豊かさを未来に繋ごう~」
  12月4日(火) 16:30~18:00 文化学園大学 新都心キャンパス A201教室にて
  HP:http://bwu.bunka.ac.jp/news/detail.php?id=1003

准教授 星 圭子


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by bwukokusai | 2012-10-30 10:44 | 教員コラム