文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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2012年 08月 29日 ( 1 )

八ヶ岳美術館見学記―彫刻家、清水多嘉示に魅せられて―

 所要のため8月22日から24日まで長野県茅野市へいってきました。新宿を発つときは気温34度でしたが、茅野駅舎の温度計は21度を示し、心地よい涼風が旅の疲れを一掃してくれるような気分になりました。
 さて、長野県には美術館、博物館がどれくらい存在すると思いますか。ざっと数えてみると40館以上あるのです。47都道府県中、1位は東京都、2位が長野県です。なぜ長野県には美術館・博物館が多いのか。私の推測ですが、長野県は昔から「教育県」といわれるほど教育や文化に対して県民意識が高いこと。著名な文化人を輩出していること。そして県内には多くの工房があり、その結果、芸術家の作品を展示すべく美術館が誕生したこと、等があげられると思います。

八ヶ岳美術館
 以前から気にかけながらなかなか出かけられなかった原村立八ヶ岳美術館を今回、見学する機会が得られました。村立という管理形態も珍しいのですが、現在は原村が設立した財団法人原村振興公社が指定管理者となって運営されています。茅野駅からバスで40分、タクシーで20分でいけます。八ヶ岳連峰にいだかれて標高1,350mの高原にあって、カラマツ林と雄大な自然環境の中にユニークな建物が目に入ってきます。著名な建築家、村野藤吾(1891~1984文化勲章受賞者)が設計にあたりました。屋根が半円形で食パンをつなぎ合わせたような白色の概観で、来訪者がおのずと招き入れられるように工夫されています。館内にはいって驚がくしたことは、高い天井から白いレースのカーテンが絞り吊りされていることで、豪邸のラウンジにでもいるような錯覚にとらわれます。しかし、やわらかな光の効果で展示物が一層目立つのです。
 この美術館は、「原村立八ヶ岳美術館・原歴史民俗資料館」として1980年に開館しました。「民俗資料館」と、並列して命名してあるのは、原村の各所から主に縄文時代の土器や石器が多数発掘され、これを修復して常設展示しているためです。縄文前期の阿久(あきゅう)遺跡は1979年に国の史跡に指定され、同遺跡の土器も展示されています。

彫刻家・画家、清水多嘉示
 この美術館が設立される契機となったのは、地元、原村出身の彫刻家、また画家でもある清水多嘉示(しみず たかし1897~1981)が生前、自ら作品を原村へ寄贈したからです。1897年7月27日、諏訪郡原村に生まれ、1915年諏訪中学校を中退後、独学で絵画を学び、若くして画才を発揮します。諏訪や岡谷の高校で美術の教師を勤めながら作品を次々と発表し、二科展入選をくりかえし、画家として身を立てる自信を深めていきます。1923年から1928年までフランスへ留学し、アカデミー・コラロッシに入学、シャルル・ゲランの教室で絵画の習作に励みます。ところがアントワーヌ・ブールデルの彫像に深い感銘を受け、ブールデルの晩年(1929)に彫刻の指導を受けることになるのです。
 帰国後、帝国美術学校(武蔵野美術大学の前身)で教鞭をとりながら、生命感にあふれるブロンズ彫刻を制作、高い評価を受けます。1939年、多嘉示は「海軍従軍彫塑家」として上海から中国本土に入ります。ここで「千人針記念碑」にかかわることとなります。多嘉示はこの作品群の一部「出征兵士ヲ送ル」を従軍中の体験をもとに多嘉示本人の発願で構想されたものです。この彫刻は、出征する父親に手を振って送る幼児を、わが子が倒れないように母親が右手で背中を支えている姿を表現したものです。現在、「母子」という題名で展示されていますが、多数の展示作品の中で私が最も感動した彫像です。
 戦後は武蔵野美術大学教授に復帰し、日展審査員、1953年「すこやか」で芸術選奨文部大臣賞、翌年「青年像」で日本芸術院賞を受賞。1965年日本芸術院会員、日展理事、1969年勲三等端宝章受賞、1980年には文化功労者。八ヶ岳美術館が開館した翌年、1981年5月5日、84年の生涯を閉じました。

企画展について
 八ヶ岳美術館では、常設展示の他に毎年数回、企画展を開催しています。現在、廃材アーテイスト、高橋耕也氏の「からくりオブジェ展が9月30日(会期中無休)まで開催されています。展示室に一歩、足を踏み入れるとセンサーが稼動して廃材で制作した巨大な骨だけの魚や時計等々が一斉に動き出し、不思議なワンダーランドへ変身します。大人ばかりでなく子どもも楽しめる企画展です。
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 八ヶ岳高原のふもとに広がる原村は、実に魅力に富んだ村です。都会からの移住者が年間約50人ずつ増加している人気の移住スポットだそうです。詳細は原村ホームページにアクセスしてみてください。

<参考文献>
① 早坂義征著 太陽への道 評伝・彫刻家清水多嘉示の生涯 長野日報社 2007
② 生誕110年記念 エコール・ド・パリ 清水多嘉示の絵画・彫刻展 2007
③ 松隈洋著 八ヶ岳美術館 1979―自在な合理主義の結晶― 京都工芸繊維大学美術工芸資料館・村野藤吾の設計研究会刊 第9回 村野藤吾建築設計図展カタログ(2007年) p.80~81 より転載リーフレット 

教授 宍戸 寛

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by bwukokusai | 2012-08-29 14:59 | 教員コラム