文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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2010年 11月 15日 ( 1 )

通訳案内業(ガイド)の経験から

学生時代にアルバイトで観光ガイドをしていたことがあります。高校生の時、アメリカに留学していたこともあり、(当時は)英語をしゃべることにはそれほど苦痛はなかったのと、学生としては儲かる仕事であると友人に勧められたこともあって、アルバイトといっても、通訳案内業試験に合格して東京都に正規のガイドとして登録し、旅行会社(主にJTB)と契約して働いていました。もう40年ほども前のことです。

観光ガイドの仕事は、団体を対象にするもの、個人の案内をするもの等、いろいろあります。私が一番多く経験したのは20名ほどのアメリカからの団体に対しての1週間の日本観光案内です。団体の中味は現役を引退した夫婦がほとんどでした。日本やアジアに関心が深く、日本を含むアジア行きのパッケージツアーを購入した人々です。コースは、以下のような定型パターンで、日本での一週間はびっしり日程が詰まった強行軍でした。

日曜日=夕刻、アメリカから羽田空港(当時は国際線も全て羽田)に到着、ホテルへ。
月曜日=午前、皇居や浅草等の都内観光。(東京泊)
火曜日=日帰りで日光観光(往復は電車)。(東京泊)
水曜日=朝にバスで東京を出て、終日、箱根・富士山を観光。(箱根泊)
木曜日=熱海から新幹線に乗り京都へ移動。(京都泊)
金曜日=二条城・金閣寺・平安神宮等の京都観光。(京都泊)
土曜日=伊丹空港から出発(団体は香港へ続けて旅行)。

この全行程に同行し、観光案内をするのです。当時は私も体力に任せて土曜日に伊丹から東京に帰るとすぐ次の日曜日に羽田へ次の団体を迎えに行くというパターンを続けて何週間も繰り返したこともあります。大学紛争で、大学の授業も閉講が多かったためこんなことができたのでしょう。

具体的な仕事は、まず羽田到着時に出迎え、ホテルまでバスで案内し、翌朝ホテルからバスで都内観光に出る、バス内ではマイクをもって観光案内し、バスをおりては旗をもって観光案内をする、また、日光行きには浅草から電車に乗り、現地をバスで移動、また電車で浅草に帰ってきてバスでホテルへもどる、更に、バスで箱根へ観光の後も、熱海から新幹線に乗り京都駅で降りてからまたバスで移動というように、移動と観光案内の仕事を1週間行なうのです。その間、ガイドの仕事だけでなく、いわゆるツアーコンダクターとガイドの二役を一人でやらなければならないこともありました。(団体には、ツアーコンダクターがついている場合とついていない場合がありました)。

やりがいのあるチャレンジングな仕事でしたが、それなりに気疲れや苦労も多くありました。ベテランに比べると未熟な学生の身分で何とか続けられたのは自分の楽天的な性格によるところもありますが、アメリカ人団体の陽気な明るさやフランクなコミュニケーション、それに寛容さによるところも大きかったのではないかと思っています。

最後に伊丹空港に送っていくと、バスを降りるときに団体の皆さん一人ひとりが、私と握手してくれ、額はまちまちでしたがドル札でチップをくれ、(まとめると相当な額になったものです)にこやかに香港に向けて旅立っていったものです。ひとつの仕事をやり遂げた満足感と別れの寂しさが入り混じった複雑な心境でした。まだ1ドル360円の強いアメリカの時代であり、古き良き時代のことです。

今振り返れば、観光地の案内や紹介はそれなりにできていたとは思いますが、その奥にある日本の歴史や文化の紹介、日本人そのものの紹介がいかほどできたかと思うと、もっとしっかり勉強して説明ができたらよかったという後悔もあります。

その時の私の経験では、「観光」の成功には、特に現地での満足度の向上には、いくつかの要素があります。まず、第一に、自然であれ、歴史的な人造物であれ、観光資源の価値が高いこと。ただしこれは価値判断ですから国民差・民族差や個人差があるということを認識し、旅行者のニーズに合致した観光資源を提供する必要があります。第二に観光資源の価値を高め、広める仕組み、すなわち、交通、宿泊の体制が整っていることや情報の提供が現地において適切に行なわれること。インフラの整備や案内標識のようなものから、より踏み込んだ情報が提供できるガイドなど、ソフトウェア的な体制の整備が大切です。第三には、これが特に大事ですが、現地の人々の受け入れ・もてなしの気持ち、いわゆるホスピタリティ精神というヒューマンウェア的な要素です。

「観光」という無形のプロダクト(商品)をハード・ソフト・ヒューマンにわたって総合的にプロデュースし、観光を振興し、観光客の受け入れを拡大していくというのは大変な仕事ですが、同時に大変意味のあることです。環境は厳しいのですが、幸い、観光の重要性に対する地方自治体をはじめ関係各所の認識は高まっています。また、日本政府の成長戦略として、「観光立国」という強い追い風があります。海外から日本を訪れる人々は間違いなく増えていきます。そして日本人ももっと海外を知る必要があります。文化女子大学で観光を学んだ学生が、観光業界で活躍できる人材となって、日本の観光の質と量の向上に貢献してもらえればと願っています。


                                                     教授 高橋 哲夫

文化女子大学 現代文化学部 国際文化学科のHPはこちら
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by bwukokusai | 2010-11-15 18:06 | 教員コラム