文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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2010年 10月 26日 ( 1 )

電子書籍は図書館を変えてしまうか

先日、通勤電車の中でつり革につかまっている私の目の前の座席で、会社員風の若い男性乗客が携帯電話の画面を熱心に読んでいるところを目にしました。よく見るとそれは、日本経済新聞の電子版であることがわかりました。細かい文字を拡大し、指一本で自在に操りながら他のコラムへ移動させていく。これなら混雑した車内で新聞を広げることもない、便利な道具を考えたものだと実感した次第です。

話はいきなり53年前にとびますが、1957年10月、ソ連邦によって世界初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられ、世界を驚嘆させました。特にあわてたのは、宇宙開発のリーダーと自認していたアメリカでした。連邦政府はさまざまな科学技術教育振興に関する法律を制定し、学校図書館をはじめとする各種図書館に数学や科学技術に関する資料費の予算をつけ、図書の購入を奨励しました。その結果、図書館には未整理の本の山ができました。LC(米国議会図書館)はこの事態を解決するためコンピューターで本を整理させてしまうMARC(機械可読目録作業)を考案し、1962年稼動を始め、書誌情報を入力した磁気テープを全米の図書館へ頒布し、整理業務の効率的な執行を実現させたのです。

今から41年前の1974年、洋書の滞貨処理で悩んでいた都立中央図書館(前の勤務先)にアジア経済研究所からMARCの実演、見学のお誘いがあり、若い職員をつれて四谷の研究所へでかけました。ISBN(国際標準書誌番号・表題紙の裏側に記載)をキイボードに入力しただけでコンピューターに接続されたプリンターからミシン目の入った該当の目録カードが次々と打ち出されてきたのです。これには一同腰を抜かすほど驚き、館へもどるなり上司を説得し、丸善をとおして同所に依頼し、たちまちにして滞貨問題を解消させた思い出があります。まもなく国立国会図書館がJAPAN /MARCを開発し、和書の整理に役立てました。やがてインターネットの普及によりカード目録が消え、WEB-OPACへ移行し今日にいたっているわけです。

コンピューターの出現は図書館にも数々の恩恵をもたらし、目下、冒頭に記した電子書籍が大きな話題となっています。大手印刷会社が電子書籍ビジネスへ参入し、大手書店も電子書籍の配信へのりだす構えをみせています。書籍のデジタル化も大いに結構ですが、私は紙の本は捨てがたい魅力を有していると思っています。
最後に毎日新聞10月18日(月)朝刊のコラムWorld Voice 掲載の次の言葉を引用して結びとします。
「私にとって本とは『紙』の本。技術(革新)には本の内容を貧しくさせる危険がある」(ノーベル文学賞に選ばれたペルー出身のマリオ・バルガス・リョサ氏が7日、記者会見で。電子書籍やデジタル化の時代に人間や社会に迫る文学の本質が失われてしまう恐れがあるとして。時事AFPより)

                                                       教授 宍戸 寛

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by bwukokusai | 2010-10-26 15:05 | 教員コラム