「ほっ」と。キャンペーン

文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

bwukokusai.exblog.jp
ブログトップ

「青色LED」

 先週、今年のノーベル賞各賞が発表された。物理学賞では、青色LEDで赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏が受賞を果たし歓喜に沸いた。一転、文学賞では、村上春樹氏が今年も受賞を逃してまたもやかと落胆ムードとなった。この二つの事象は、もちろん無関係のことなのだけれど、あれれ、私の中で物理学と文学が、細い糸でつながった感覚を覚えた。「そういえば…青色LEDって題名の小説なかったっけ…?」
 記憶をたどり本棚を掘り返して、あーようやく見つけた。長嶋有の『エロマンガ島の三人』(文春文庫)に収録されている書き下ろしの短編小説だった(ちょっと変わったタイトルがつけられているけど、単行本には―長嶋有異色短編集―というサブタイトルがつけられていて、芥川賞作家長嶋有の本来作品とはちょっと毛色がちがうのですよ)。で、どんな話だったか全く覚えていなかったので読み返してみる。冒頭の一文はこう始まる。

   刑務所を出たHが最初に思ったのは、信号機のランプが見慣れないものに変わっているという
  ことだった。
   信号の粒子が、粗い。粗くてぶつぶつしている。バスが次の信号で停車すると、それは十年前
  に見たのと同じランプで、どこか古ぼけてみえる。
   さっきのあの信号機の光こそが「二十一世紀」だ。なんとなくそう思った。


 結局、刑期を終えて刑務所から出所した殺人犯の話で、青色LEDは小説の本筋とは関係なかった。が、この冒頭と、もう一節、知人の携帯電話が着信したとき、その背面が、赤や緑でなく青く光ることに、出所した主人公が未来的な感覚を覚えるといった描写の中に青色LEDが出てくる。
 つまり、青色LEDは、10年ぶりに娑婆に出た主人公が、社会の変容を実感するための装置として配されているのだ。この小説が単行本として刊行されたのが2007年、おそらく小説の設定も同時代。青色LEDの実用化が進んで、あっという間に、我々の生活の中に浸透していった時期だ。
 つくづく面白いなと思ったのは、物理学者の青色LEDの発明が、テクノロジーの進歩をもたらしたばかりでなく、その漣が小説の世界にも影響を与えていたことであり、小説家は、そういった社会の変化を汲み取って作品に織り込んでいるのだな、ということを感じさせられたことである。

准教授 栗山 丈弘
[PR]
by bwukokusai | 2014-10-14 09:00 | 教員コラム