文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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「敬語行動」をめぐる日韓比較 …浮かび上がる「相手(二人称)」と「集団」の重さ

韓国語は日本語と同じように敬語体系を持つ世界でもごく少数の言語のひとつです。尊敬語や丁寧語が韓国語にもあります。しかし、日本語と韓国語の敬語には興味深い違いもあります。今日はこの点について少し整理することで、日本社会の特徴の一端について考えてみたいと思います。

両言語の敬語の違いとして指摘できることのひとつは、いわゆる「相対敬語」か「絶対敬語」かの違いです。
韓国語では、例えばうちに電話をかけてきたお父さんの会社の人に対して子どもが次のような答え方をします。

「お父様は今食事をしていらっしゃいます。」

つまり、韓国語では、目上の者(上司や父親)のことを話題にするときは話し相手が誰であろうと上位者として待遇するわけです(絶対敬語)。
それに対して、日本語では、電話をかけてきた取引先の人物に対して社員は次のように答えます。

「部長の佐藤は、ただ今席をはずしております。」

日本語では、たとえ上司のことであってもソトの人に話すときは、「おります」と謙譲語を使い低めた扱いをします(相対敬語)。
(韓国語についての情報は仁・井出(2004 ,p.120~124)、斉藤明美(2005,p.83~88))

この「相対敬語」か「絶対敬語」かの違いは、敬語を使用する上で「相手(二人称)」の存在に対してどれだけのウエイトを置くかの違いといえます。話す「相手」が誰であれ目上の人を話題にする時には上位待遇をするのが絶対敬語の韓国語。たとえ目上であっても、話す「相手」によっては低めた扱いをするのが相対敬語の日本語です。つまり、日本語においては「相手」が敬語選択の上で重要な位置を占めているわけです。このことは、日本人にとっての「相手」の存在の大きさを示す現象のひとつとして注目されます。
 
もうひとつ、日本語の敬語と韓国語の敬語とをくらべて注目されるのは、敬語の選択に占める「年齢」のウエイトです。日本語においても年齢は敬語選択の重要な条件のひとつになっていますが、韓国語とくらべた場合、興味深い違いが浮かび上がります。それは、「年齢」と「集団への参入年次」が食い違った場合、そのどちらが優先されるのかの問題です。
一般に大学では浪人等によって同一の学年にも年齢差が見られます。この点は日韓に変わりはありません。ところが、日本では「学年」が大きな位置を占め、同学年であれば年齢差(浪人と現役等)があっても、通常、

「明日のパーティ、行く?」
「うん、行くよ。」

のように、ともに非敬語が使われます。さらに、次の例のように、サークル活動等において、年上の後輩年下の先輩に対して丁寧な表現を使い、いっぽう年下の先輩が年上の後輩に対してぞんざいな表現を使う(二浪と現役のような場合)ということも普通に行われています(親子ほどの明確な年齢差がある時は違うでしょうが)。

年下の先輩「お前、明日のパーティ、行くの?」
年上の後輩「ええ。行こうと思ってます。先輩はどうされます?」

つまり、日本の大学生の間では、通常「学年」という組織内序列が「年齢」という個人的属性を抑え、敬語使用の条件として優先的に働いているわけです。いっぽう、韓国では年齢が重視され、同学年であっても年上の者には丁寧な表現を使わなくてはならないといいます(斉藤(2005)p.5)。さらに、本学で学ぶ複数の韓国人留学生に確認したところ、後輩であっても1歳でも年上ならば丁寧な表現が使われるそうです(その際、年上の後輩も年下の先輩に対して、上級生であるからとして丁寧な表現を使うといいます)。
キャンパス内において年齢という個人的な属性は無視され、集団への参入年次が敬語選択の条件として優先的に採用される日本と、集団の中でも参入年次以上に年齢という個人的な属性が重要視される韓国。この日韓の違いは、日本人にとっての「集団」の存在の大きさを物語っているように思われます。

もっとも、複数の韓国人留学生(入隊経験者含む)に確認したところ、敬語を使うか否かにおいて、軍隊では年齢よりも隊内の序列の方がより優先されるようです。また、先に話題にした絶対敬語か相対敬語かについても、韓国においても階級や職階等の明確な軍隊等の集団においては、「(話題にする)第三者が自分より年齢や職階の高い人であっても、その人より年齢や職階がさらに高い人の前ではその人を高められない」という相対敬語的な敬語法(押尊法)があるとのことです(ホン ミンピョ(2007)p.90)。
韓国語とくらべて浮かび上がった日本語の敬語の特徴が、韓国の軍隊内における敬語の特徴とは重なる点があるというのは、興味深い現象に思えます。


参考文献:
加藤薫(2014)「世間論と日本語 ―世間論に符合する日本語の文法的特徴―」『世間の学 VOL.3』日本世間学会
斉藤明美(2005)『ことばと文化の日韓比較』世界思想社
仁栄哲・井出里咲子(2004)『箸とチョッカラク』大修館
ホン ミンピョ(2007)『日韓の言語文化の理解』風間書房



教授 加藤薫
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by bwukokusai | 2014-03-18 09:00 | 教員コラム