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文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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二人のドナルド・キーン観

今年度の私の卒業研究ゼミは、ドナルド・キーン一色に染まった感があります。ゼミ生の二人がともにキーンを卒論のテーマに選んだからです。国際文化を学ぶ彼女たちがキーンという日本文学の研究者に惹きつけられたのは、東日本大震災の後多くの外国人が帰国する中で、キーンは逆に日本への永住を決意したことを知ったためです。「(震災後の)このような時だからこそ日本に寄り添いたい」と言うニューヨーク生まれのアメリカ人はどんな人物なのか。素朴な問いかけから彼女たちの卒業研究は始まりました。

テーマが決まると、次は文献の読解です。キーン自身による多くの著書が論文の主な資料になりました。二人とも同じ人物に注目していますので、当然のことかもしれませんが、参考文献もかなり重なります。本を貸し借りして、感想を交換するシーンもしばしば「目撃」しました。ここで、教員の側からみると、大変興味深いことが起きました。二人は、同じテーマを掲げて同じような文献を読んでいるのに、面白いと感じる場所がずいぶん異なっているのです。

一人の学生は、キーンが列挙した日本人からよく尋ねられる質問に関心を持ちました。「日本語は難しいですか?」「俳句は理解できますか?」などです。あなたも日本に住む外国人に聞いてみたりしていませんか? そして、その時どんな返答を期待していますか?「敬語以外に不自由は感じていません」とか「俳句なんてそんなに難解なものではありません」なんて答えられたらどうでしょう? キーンは、このような場面では、質問者を少し「安心」させるために、わざと「もちろん難しいです」とか「やはり日本人にしか俳句は理解できないでしょう」と答えることがあるそうです。日本人が自文化の特殊性を過剰に意識しがちになることを、キーンが教えてくれているようだと彼女は感じたそうです。

もう一人の学生は、キーンの生い立ちや戦時中の体験について、詳しく調べていました。19歳のときに『源氏物語』と出会い、第二次大戦中に海軍語学校で日本語を学んだキーンは、1943年初頭から終戦時まで、翻訳や通訳を担当する将校として従軍しました。そして、アッツ島、レイテ島、沖縄などで日本人捕虜と直接向き合ったのです。このときに、語学校で教えられた「日本精神」や「玉砕」がいかに紋切り型のものであったかを確認したと言います。そして、キーンが戦死した日本兵が残した日記を家族のもとに返すために、上官の目を盗んで隠そうとしたというエピソードは、学生のキーン観を決定的なものにしました。

このように、二人の着目点は面白いほどに異なっていました。でも、キーンという人物を通して日本を見つめなおすという点においては、共通するものがあったと思います。国際文化を専攻した学生らしい独特のキーン研究が仕上がりました。

*2月6日に行われた2012年度国際文化・観光学科の卒業研究発表会の様子は、以下のページでご覧下さい。
平成24年度 卒業研究発表会 http://bwukokusai.exblog.jp/17278675/
                                                 教授 中沢 志保
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by bwukokusai | 2013-02-19 08:00 | 教員コラム