文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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「ものくさ太郎」のお話

 ものぐさ太郎は朝寝坊           ものぐさ太郎は家持たず
 お鐘が鳴っても目がさめぬ         お馬が通れど道の端(はた)
 鶏(コケコ)が啼(な)いてもまだ知らぬ  お地頭(じとう)見えても道の端

 ものぐさ太郎はなまけもの         ものぐさ太郎は慾(よく)知らず
 お腹が空いても臥(ね)てばかり      お空の向うを見てばかり
 藪蚊(やぶか)刺しても臥てばかり     桜の花を見てばかり

 これは、室町時代に成立した御伽(おとぎ)草紙『ものくさ太郎』の主人公をうたった、北原白秋(1885~1942年)の「物臭太郎」という童謡(振り仮名は筆者)です。ものぐさ(懶・物臭、古くは清音の「ものくさ」)とは無精なことやそうした性質の人のことですが、この歌詞からは太郎のただならぬ物臭ぶりがうかがえます。ただ、「慾知らず」は少しちがっていて、太郎は1町四方(約3,600坪)の屋敷に邸宅をもつ夢を抱き続けながら、道端で野宿生活をしているのですが。
 ある日、餅を村人から五つもらいその一つを道に転がしてしまうものの、誰か通るまで拾わないことにします。3日たって、そこへ鷹狩りに行く地頭(一帯の領地を管理する領主)の一団が通りかかります。太郎は餅を拾ってくれといいますが、地頭は無視して通り過ぎようとします。太郎は「餅を拾ってくれるぐらいたやすいのに、それをしてくれもしない」、「あんなに物臭な領主がよくも領地を治めることができるものだ」と、地頭にさんざん悪態をつき、「あらうたての殿や(ああなんとなげかわしい殿様なんだ)」とこき下ろします。
 地頭は腹もたてずに太郎を諭します。
 「命助かる支度をせよ。一樹の蔭(かげ)に宿るとも、一河(いちが)の流れを汲むことも、他生の縁となり。所こそ多きに、わが所領のうちに生まれあうこと、前世の宿縁なり。地をつくりて過ぎよ」(生きていく算段をしなさい。同じ木の下でいっとき一緒に宿ることも、同じ川の水を汲むことも、前世からの縁だ。広い世の中から、あえてこの領地で一緒に生きていくことになったのも前世からの縁で決まっているのだろう。地を耕して作物を作って暮らしなさい。)
 地頭は、土地を与えるなどの援助を申し出ますが、太郎はこれを拒否します。それでも地頭の計らいで村人たちから食事が届けられ3年間暮らしたあと、京に長夫(ながふは長期の労役に就く者)として上ります。その旅の中で太郎はまったく別人に変身し、働き先では実直な働き者として評判となります。
 労役を終えて帰郷することになり妻として連れ帰る女性を都で見つけます。その女性に和歌の素養をみいだされた太郎は、きちんと身なりをととのえ、ついには帝に招かれて和歌を披露し才能を認められます。帝の命により太郎のルーツが調べられ、ある天皇の第二皇子であることがわかります。太郎は信濃の中将に任命され、甲斐と信濃の2国が与えられます。出世した太郎は帰郷して120年間も善政を治め、領民の信頼を受けて、最後には夫婦で神となりました。人は前世からの定められた縁によって生かされ共に生きているのだというお話です。

 東北大学大学院の佐倉 由泰先生は、『今を生きる 東日本大震災から明日へ! 復興と再生への提言』(1.人間として 座小田 豊・尼崎 彰宏編 東北大学出版会 2012年)第三章「縁」―― 御伽草子『ものくさ太郎』に学ぶ―― において、次のように述べておられます。

 ―― 今日言われる「絆」が互いに支え合おうという前向きな意思を通して生まれ、はぐくまれる
 自立的な結びつきであるのに対し、「縁」とは、今の自分たちが知らないところで既に定められてい
 るもので、意思とは別に、選別の余地なく受け入れるしかないつながりである。共にがんばる人と人
 とがはぐくみ合い、深め合うのが「絆」であるのに対して、「縁」は、同じ時に同じ場に居合わせたこ
 とを、一つの定めとして、諦念を持って緩やかに引き受けるような関係である。――

 佐倉先生は、最後の節で次のようにも書いておられます。
 ―― 私たちは、「今を生きる」とともに、「今生かされている」。震災に対する「復興」の中、私たち
 は、最先端の科学に多くを学ぶ必要がある。それと同時に、私たちの祖先がはぐくんだ古典知、人文知
 にも多くを学ぶべきであると思う。古典文学にも人を生かす力がある。――

 今回はとても長い文になりました。佐倉先生のエッセーから受けた感銘ゆえとお許し願えればと思います。
 そうそう、太郎は、多賀大社(松本市)に、おたが明神として(穂高神社との説もある)、妻はあさい権現として祀られ今も人々から厚い信仰を受けているそうです。
                                                  講師 西村 修一
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by bwukokusai | 2013-02-05 08:00 | 教員コラム