文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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絵本『しきじのみっちゃん』に感銘

 幼児が祖父母宛に覚えたての文字で一生懸命に年賀状を書いている姿は実にほほえましいものです。文字を読み書きできることを「識字」といいますが、成人になっても読み書きのできない人は世界で8億人以上いるといわれています(注1)。学校がない、近隣にあっても貧困や戦争等で通学できないからです。
 
 昨年の10月5日、NHKニュース「おはよう日本」で表題の絵本『しきじのみっちゃん』のことが報道されました。家が貧しかったため学校へ通えず読み書きができないまま大人になった人たちが日本にも昔、大勢いました。その人たちのために設けられた文字を勉強する「識字教室」へ35年通った北本ミツ子さんという89歳の女性の半生が絵本にまとめられたというものです。早速NHKへ電話をして「絵本」の制作元を教えてもらいました。東大阪市立長瀬北小学校内の、絵本「しきじのみっちゃん」制作実行委員会事務局へ連絡がつき、すぐに絵本を入手しました。

 黄色の表紙に素朴なひらがなで書かれたタイトルが絵本への親しみをかもしだしてくれます。表と裏の見返しには北本さんが綴った「私と識字学級」、「識字学級での喜び」等の手書き原稿がそのままトリミングされ、文字を読み書きできなかった北本さんとは思えない闊達な漢字や仮名で埋め尽くされているのです。表題紙を開くと、北本さんの生地、蛇草(はぐさ)ののどかな松並木に沿った川で、幼いみっちゃんが食材のしじみをとっている様子が描かれ、おはなしの幕が開きます。
 家が貧しかったため、ほとんど学校へ通えず弟の子守をしながら家事に励みます。家計を助けるためブラシ作りの内職も始めます。結婚をするまで続けました。17歳で結婚をして、男の子に恵まれます。しかし、この子が病を得て病院へ連れて行くのですが、読み書きができないために診察の手続きができず最愛の子を亡くすという悲劇に見舞われるのです。「字 知らんことで、子どもの命まで とられてしもた。字 知らなあかんなあ。」と、心底悔み、悲しむみっちゃんでした。戦争が終わり、シベリアに抑留されていた夫が帰ってきます。夫の廃品回収の仕事を手伝いながら、再びブラシ作りを始めます。村に、学校へ行けなかった人のために「識字教室」ができ、みっちゃんは通い始めます。雨の日も風の日も休まず通い続けます。
 30年以上ずっと「識字教室」で文字を学んできた「みっちゃんおばちゃん」は子どもたちの勉強会によばれて講演や、ブラシ植えの講習会も行います。そして、晴れ着を身にまとった「みっちゃんおばちゃん」に、70年以上前に行けなかった小学校の卒業証書がおおぜいの子どもたちの前で授与される場面で終盤を迎えます。

 この絵本は、貧しいがために学校にも行けなかった時代をよく反映している貴重な証言でもあります。私は、33年前に長編創作児童文学『子守学校』(菅生浩著 ポプラ社 1980)を読み、いたく感動したことがあります。子守学校とは、子守奉公にしばられて一般の小学校へ行けない貧しい子ども達のために明治政府の指示でつくられた学校です。この本は主人公、直吉が福島県郡山の子守学校へ幼子を背負いながら、勉学に情熱を燃やす一方、多くの級友たちとの出会い、別離、様々な出来事に遭遇しながらも自立していく健気な少年像を描いたものです。

 9月8日は「国際識字デー」です。ユネスコによって1965年11月17日に定められ、世界中で式典が行われます。特に女性の識字率が20%にも満たない国々がいまだに存在します(注2)。識字について私達日本人は忘れがちですが、個人と社会にとって識字がいかに重要であるか、識字率をあげていくという喫緊の課題として世界規模で考えていかねばなりません。
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(1) 中村雄祐著 『生きるための読み書き―発展途上国のリテラシー問題―』 みすず書房 2009
(2) 総務省統計局統計研修所編 『世界の統計 2012』 日本統計協会 2012   

                                      教授 宍戸 寛

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by bwukokusai | 2013-01-15 08:00 | 教員コラム