「ほっ」と。キャンペーン

文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

bwukokusai.exblog.jp
ブログトップ

観光資源としての「風」

 観光者(観光をビジネスとして論じる場合の観光客)が見てカンショウ(観賞、観照、鑑賞)したい、体験したいと思う対象を観光資源といいます。観光の動機となるものすべてが含まれます。有形、無形を問わずあらゆるものが観光資源となりえます。「音の風景」とか「パワースポット」とかいうことばを聞いたことがあるでしょう。これらもれっきとした観光資源といえます。
 自然現象としての風も観光資源の一つです。風にもいろいろな風があります。清らかでさわやかな清風(せいふう)もあればすさまじい凄風(せいふう)も吹きます。
 清風には、たとえば竹林に吹くそよ風があります。京都嵯峨野(さがの)の竹林の道を歩くのが私はとても好きです。竹林の道から落柿舎(らくししゃ)までゆっくりと歩きます。京都には、観光客に人気のある竹林の道が他にもいくつかあります。
 秋田県能代市の沿岸には黒松の松原があって、海からの風が吹くと、松のこずえをゆらして静寂な中に繊細な音を聞かせてくれるそうです。「松籟の音」(しょうらいのおと)といいます。音の風景にも選ばれています。
 凄風では、なんといっても本州最北青森県の津軽半島の北端にある竜飛岬(たっぴみさき)がよく知られています。若者たちに二輪車によるツーリングで人気のあるところです。ただ、冬には降った雪を吹き飛ばすほどの風が津軽海峡から吹き上げて積雪もほとんど見られないといいます。
 さて、風の中国における原字は、鳳(おおとり)(伝説上の大きな鳥)の字だったそうです。これは、中国では鳳を風神(風の神)の使いと考えたことによるとされています。京都宇治にある平等院の鳳凰堂には屋根の上に鳳凰(大鳥の雄と雌)が据えられていますが、その雄が風というわけです。
 宮沢賢治の短編小説『風の又三郎』には風の神の子とおぼしき転校生が登場します。東北の山村の小さな学校の子らとこの転校生との9月1日から9月11日までの交流を描いたもので、転校生は地元の子供たちに疎まれて11日間で学校を去るというお話です。三陸地方では9月初めごろには風が強く昔から農作物に被害を与えてきたことを考え合わせれば納得のいくお話ではあります。
 風は昔から農作物に被害を与える存在でもありました。そのため、風の神を鎮める祭礼が日本各地で行なわれてきました。中でも、6月28日から1週間行なわれる奈良県三郷町(さんごうちょう)龍田大社(たつたたいしゃ)の「風鎮祭」(ふうちんさい)は有名です。9月1日から三日三晩踊り明かすことでよく知られている富山市八尾の「おわら風の盆」は20万人以上が訪れる大きな祭りです。一説に、風の神を鎮めて豊作を願う祭りが起源だともいいます。8月20日からの10日間には前夜祭が行われ地域外から訪れる観光客も輪踊りに参加することができるそうです。府中に住む私の義姉なぞは高齢となった今でもよくこちらの前夜祭に浴衣を持ってでかけます。観るだけの祭礼だけでなく、参加できる前夜祭もあって大きな観光資源となっています。
 風が吹かないと困る人々もいました。大型の帆船でお米や酒、衣類、海産物などを運ぶ人たちです。こうした運送を廻船といいました。日本の台所大坂と江戸や東北を結ぶ廻船です。東北からはお米・海産物、北海道からは海産物が、一方上方からは衣類・酒などが運ばれました。特に上方から江戸に運ばれる酒は「下り酒」と称され人気を得たといいます。江戸時代には大坂から、瀬戸内海、関門海峡を経て日本海を航行する航路と紀州、遠州、房総、常陸、三陸海岸を経て太平洋を航行する航路とがありました。帆船ですから順風が吹かないと船は進みません。その風が吹くまで沿岸の港で碇泊して待ったのです。碇泊に適した良港は「風待ち港」として栄えました。風待ち港の街並みは歴史的な独特の雰囲気をもっています。たとえば、青森県の日本海沿岸の深浦町や三重県の志摩町などかつての風待ち港の街並みを観光資源として積極的に活用しています。
 風は、このように観光にとって無視できない存在なのです。

講師 西村 修一


文化学園大学 現代文化学部 国際文化・観光学科のHPはこちら
[PR]
by bwukokusai | 2012-09-18 10:05 | 教員コラム