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文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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環境アセスメントと歌川国芳

 新年あけましておめでとうございます。皆さまとともに、今年こそよいことの多い年でありますようにとお祈りしたいと思います。

 それにしてもあわただしい年の暮れでした。とくに普天間基地移転問題を巡って、防衛省が御用納めの12月28日朝4時に環境影響評価書を沖縄県庁へ運び込んだというニュースには、その姑息さにあきれました。しかしこの出来事の副産物として、環境影響評価法の存在が多くの国民に知られることになったのではないかと思います。
 1997年に成立したこの法律は、大規模公共工事など環境に大きな影響を及ぼすおそれのある事業について、その事業を実施する事業者自らが環境への影響を予測評価し、その結果に基づいて事業を回避、または内容をより環境に配慮したものとしていく手続き(環境アセスメント)を定めています。実務的には「方法書」「準備書」「評価書」の三段階の書類提出を経て各自治体の環境影響評価審査会により審査が行われますので、普天間基地の辺野古移転に関しては07年8月の「方法書」提出から4年を経ていよいよ最終段階の「評価書」提出に至ったのです。今後の動きから目を離すべきではないでしょう。

 一方、この普天間問題とほぼ時を同じくして震災復興・原発事故対策を主な内容とする2011年度第4次補正予算案、12年度予算案が決定されました。その際、驚いたことに長らく凍結されていた東京外環道をはじめ整備新幹線、八ッ場ダムなどの大型公共工事の軒並み再開が決定されました。私が委員を務める神奈川県環境影響評価審査会でも中央新幹線(東京~名古屋市間、いわゆるリニア新幹線)建設についての「方法書」が12月に知事から諮問されました。私はあらかじめ建設予定地域とされる神奈川県北部地域を現地調査しましたが、この地域にはいかに豊かな自然が残されているかを実感し、そこになぜ中央新幹線を建設しなければならないのか、大きな疑問を持っていました。この計画について、JR東海から建設前提の「方法書」の急な提出があったのです。
 こうした動きを見ていると、「コンクリートから人へ」という民主党の政権公約は事実上放棄され、震災復興に便乗した財政資金大盤振る舞いが行われているように感じます。国交省官僚たちは前田武志国交相(旧建設省出身)の承認の下、「いまは震災という有事。現時点でやりたいことを全部出していると鼻息は荒い」(朝日新聞12月25日)そうです。

 そんな暮れのあるいち日、六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリーで開催中の歌川国芳展に行ってきました。歌川国芳(1797~1861)は日本橋本銀町に生まれた生粋の江戸っ子絵師で、そのダイナミックな構図で「奇才」として知られていますが、市井の人たちの生活、好みを丁寧に写し取っていく画風には定評があります。私の専門領域である文化コミュニケーション(文化はどのように伝達されるか)でもメディア(伝達手段)の果たす役割は大きなものです。国芳の眼に江戸文化はどのようにうつったのか、彼はどのようにそれを伝達しようとしたのか、当時の重要メディア=錦絵で確認してきました。
 420点にも及ぶ作品群は武者絵、役者絵、風景など8つのジャンルに分けられ、彼の才能を開花せしめた大判3枚続きの武者絵シリーズの大胆さ、役者絵・美人画などに見られる粋な着物の柄行き、化粧・髪型の流行描写の細やかさなど、彼の画想の自由さ、豊かさを十分に堪能することができました。
 しかし国芳の真骨頂はなんといっても戯画にあります。1842年の老中・水野忠邦による天保の改革で、役者絵、遊女・芸者風俗の絵が禁止され、錦絵の出版界は大打撃を受けます。ですが国芳はこの規制を逆手にとり、自らが愛した猫・金魚などをモチーフにして役者絵を変身させたばかりではなく、狐や狸などの「化かす」動物をテーマに政治家たちを風刺する新ジャンル(いわゆる風刺画)を切り開いていきました。その発想の縦横無尽さには舌を巻くばかりです。その意味で、国芳は優れたグラフィックデザイナーであっただけではなく、シニカルな眼で事実を切り取り、メディアで読者に伝達する一流のコミュニケーターでもあったのです。
 歌川国芳展は、途中での展示品入れ替えを挟んで、2月12日まで行われています。一見をおすすめします。

                                                      教授 三島 万里
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by bwukokusai | 2012-01-03 14:09 | 教員コラム