文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

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今度は、カイン・コンプレックス

我が大学には、2月と9月の通常授業のない時期にとれる科目が幾つもある。異分野の教員達が協力してオムニバス形式等で授業を繰り広げ、コラボレーション科目群を提供している。これらの授業は、新都心と小平両キャンパスで行われ、学生達は普段所属していないキャンパスで受講して自分の専攻と違う分野の見識を深めることも出来る。

私は、「シネマ小平」というコラボ科目のコーディネーターをしていて、(といっても、罪のない人々が次々に突然殺されていくシーンが辛すぎて、『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』を途中しばらく直視出来ないような情けないコーディネーターなのだが)4名の先生方と一緒に、学生が普段ならあまり見ないような映画を取り上げ、鑑賞の事前・事後授業を通して、毎年いろいろな角度から社会的学びを得られるように工夫している。

今年9月は、社会的弱者と呼ばれている人達に焦点をあてて、自閉症への理解を深め、貧困の問題等をとりあげた。私自身は、昨年夏に大阪で起きた2幼児置き去り事件との比較から、「ネグレクトという悲しい現実逃避」という授業タイトルで、『誰も知らない』を新しい切り口でとりあげることにした。ネグレクトもまた世代間で負の連鎖があり、これを断ち切るために活動されている長谷川博一氏の取り組みや著書の内容を学生に紹介し、法改正後も、強制立ち入り調査にはなかなか至らない仕組みを図などで説明した。これと比較して、人命救助のために不可欠であるスピーディな対応が、アメリカの児童虐待防止通告法でどのように明文化されているかを、「36時間以内」という具体的数字を例に説明した。また、キース・N・リチャーズのようなN.Y.の児童虐待調査官達が、ねばり強く張り込みをし、銃口を向けて追い払う親に対してさえ、警察と協力して調査を続けた姿勢や、緊急事態にあっては「法廷侮辱罪で留置場に入れるぞ!」と制止されながら、判事につめよって許可状を求めたシーン等を自伝的著作から引用して読んだ。授業後には、学生の「親が子どもを守れないなら、他の大人達で守れる社会を私たちで作る!」というたのもしい声も聞こえ、そんな意識を持ってくれたことが、嬉しかった。

そして、今度はなぜカイン・コンプレックスかというと、この「シネマ小平」で是非とも来年コンプレックスを取り上げたい、と私は目下考えているからだ。何しろ、うちには言語学者も英文学者もいるので、『英国王のスピーチ』をとりあげて吃音の問題やオーストラリア英語について詳しく授業をして頂くことも、『ベニスの商人』をベースにシェイクスピア文学における人種的コンプレックスについて語って頂くこともお手の物なのである。そして、スタインベック学会に所属している私自身は、『エデンの東』を通して、カイン・コンプレックスについて授業をしたいと思っている。

カイン・コンプレックスというのは、幼い時分には親の愛をめぐって兄弟姉妹に対して抱いたコンプレックスで、その後の人間関係にも影響を及ぼしていくものだ。私の卑近な例で言えば、未だに6つ違いの兄に、「お父さんは、文を可愛がって…文には甘かった」とこぼされる。その代償としての、父の心配性による束縛や、私が友人に指摘されるファザ・コン気味の生きにくさについては、文系の素養も深い兄なのに理解してくれる様子がない。兄妹ですら、人のことは、いい部分しか見えないものだ。

このテーマが実現すれば、カイン・コンプレックスという名称の生みの親であるユングのことや、名前の由来となった「カインとアベル」の話を聖書から引用して話すこともしたい。皆のよく知るピーター・パンが書かれた背景には、作者の母が夭折した兄にばかり強すぎる愛を注いでいた事実があったという例も話そうか?母が夢の中で会っていた、けっして大人になることはない少年のままの兄・・・。ピーターの宿敵フック船長は、物語のラストで鰐に食べられてしまう。自由闊達に天空を飛び回るピーターに憧れながらも、作者バリーの分身は、嫉妬という地上の鰐にのみこまれたフック船長でもあったはずだ。原作を読めば、フック船長にはとても紳士的なところがあり、読者の感情移入を許す描写が見てとれる。・・・いや、それよりも、最近やっととりあげられるようになった障害児の「きょうだい」、自分が主役の想い出がないという彼らの問題に関して理解を深める方が、授業として意義深いだろうか?いずれにしろ、さまざまなコンプレックスの例を通して、学生達には、自分のコンプレックスを乗り越えるだけでなく、コンプレックスをうまく受け入れることも知り、他人のコンプレックスに理解を示せる大人に成長してもらいたい・・・。かように、一年後の開講へと向けて、先生達はいろいろと考えているのであ~る。・・・次世代へのさまざまなメッセージを、我々の心にこめて・・・。
                                   教授 久保田 文
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by bwukokusai | 2011-10-18 11:05 | 国際文化・観光学科の紹介