「ほっ」と。キャンペーン

文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

bwukokusai.exblog.jp
ブログトップ

国連の「拒否権」は必要?

国際政治学の授業を受講する学生から「先生、なぜ国連はすぐに動かないの?」と問われました。北朝鮮が黄海の延坪(ヨンビョン)島に砲弾を撃ち込み、民間人を含む4名の韓国人が死亡する事件が起きた翌日のことです。私が少し前にこの授業で、「国連のもっとも重要な役割の一つは、国際社会の平和と安全の維持に責任を持つことである」と話したためでしょう。一般に、国際社会で頻発している紛争は、その形も原因も多種多様で、どちらか一方が全面的に間違っているというような判断ができないケースがほとんどです。そのため、国連(大体の場合、安全保障理事会)は「平和と安全の維持」のための行動を検討する際に、「侵略者」の認定や対応の選択にはことのほか慎重になります。でも、北朝鮮の今回の武力行使に関しては、国連が迷う余地などどこにもないのでは? 学生の疑問もこのあたりにあったと思います。

国連が誕生してから65年が経ち、この間世界各地で起きた紛争は150を下らないと言われていますが、安全保障理事会が明確な制裁決議に基づいて迅速に動いた例はそれほど多くありません。なぜでしょう? 理由の一つは、安全保障理事会の常任理事国がもつ「拒否権」にあると言われます。これは、5常任理事国の「大国一致」の原則のことです。つまり、アメリカ、ロシア(1991年まではソ連)、イギリス、フランス、中国の5大国が足並みを揃えないと、国連は侵略者を認定することも、侵略行為自体を阻止すべく行動をとることもできません。冷戦時代に米ソ両国がこの拒否権をたびたび行使して、安全保障理事会を半ばマヒ状態にしてしまったことはよく知られていますね。拒否権を国連の「癌」だと酷評する人もいたほどです。

では、国連はなぜこの拒否権をなくしてしまわないのでしょう? 国連事務次長として長年多くの国際問題に直接かかわってきた明石康さんは、拒否権を国連の「安全弁」と表現しています。拒否権がなくなった国連を想像してみましょう。その場合、紛争などが起きると、安全保障理事会または総会の三分の二の多数決によって国連の制裁措置が可能となります。そうなると、核兵器を持つ大国を相手に国連が軍事行動をとる可能性も出てきますね。このような場合、平和と安全を維持するどころか人類の存続が危ぶまれる世界戦争の危険すら生じてしまいます。「安全弁」の表現は、このような文脈で使われています。また、「ソフトパワー」という言葉を最初に使ったアメリカの国際政治学者ジョセフ・ナイは、拒否権を国連の「ヒューズ(ブレーカー)」と表現しました。「家(世界)が全焼するより、ヒューズがとぶ(拒否権の発動で安全保障理事会がマヒする)方がまし」というわけです。 

国連は、二度に及んだ世界大戦への深い反省から生まれた史上最大の国際機構ですが、実は大きな力をもつ国々の意向に強く影響される組織であることが、いまさらながらに確認できます。そうだからといって、国連や国際社会の現状のすべてを「力の論理」で説明することもまたできなくなりつつあります。テロリズム・経済不況・地球環境の悪化・核拡散など、現代の国際問題は例外なく国際社会の協力なしには解決できないものになっているからです。たとえ核超大国であっても力ずくではこうした問題に打ち勝つことができないことは、2001年の同時多発テロとその後の国際情勢が証明していますね。オバマ大統領は、昨年4月、国際協調の必要を訴えた演説の中で「核のない世界」を謳いました。理想主義を語ったもののようにみえますが、実は極めて現実的な提言でもあるのです。

                                                       教授 中沢 志保

文化女子大学 現代文化学部 国際文化学科のHPはこちら
[PR]
by bwukokusai | 2010-12-08 11:09 | 教員コラム