文化学園大学 国際文化・観光学科ブログ“小平の風”

bwukokusai.exblog.jp
ブログトップ

旅行道歌

さまざまな道の教えをわかりやすく詠んだ短歌のことを道歌といいます。茶道の教えを詠んだ「利休道歌」(利休百首)は有名です。これには及びませんが、旅行についても残っています。

江戸後期の1810年、江戸の須原屋という出版社から刊行された『旅行用心集』という本があります。著者は八隅蘆菴(やすみろあん)といいます。この本には、旅の心得を詠んだ22首の和歌が収められております。私は、この22首を「旅行道歌」と呼ぶことにしています。残念ながら、彼については詳しいことがわかっていません。しかし、『旅行用心集』を読めば、若いころから、奥州から九州まで旅をした人で庶民階層出身の旅のスペシャリストだったことがわかります。この本は当時の人々に広く読まれて版を重ねたようです。今日、当時の旅の様子を知ることのできる貴重な資料でもあります。

前置きが長くなりました。今回は、この22首から、今日の私たちの旅行にも応用できるものをいくつか選んでみます。みなさんが自分たちの旅行について考えるきっかけになればいいなと思います。なお、すべて読みやすいように漢字や現代仮名遣いに直しました。括弧内は私なりの意訳です。

・宿とりて一に方角二に雪隠三に戸締り四には火の元
 (旅館では方角、トイレ、施錠や非常口、火の元を確かめなさい。)

・道中は自由をせんと思うまじ不自由せんとすれば自由ぞ
 (旅行中は自由になろうと考えるな、不自由は当然と思えば自由に楽しめる。)

・長旅の道具はとかく少なきをよしと定めよ多きのは憂き
 (長い旅行こそ荷物は少ないのがいい、多いのはつらいものだ。)

・道中の食に良し悪しいう人は土地も処も見分かぬと知れ
 (旅先の食事に文句をいう人にはその土地のことは理解できないものだ。)

・道中で見栄飾りする人たちは必ず難に遭うと知るべし
 (旅行中見栄を張る人は必ず災難に遭うものだと心得なさい。)

・物言いを旅ではことに和らげよ理窟がましく声高にすな
 (旅行中は特に温和な言葉遣いをしなさい、大声で理窟めいたことを言わないこと。)

 いかがでしたか。思い当たることもいくつかあったでしょう。最後に、旅行者として常にこころがけておきたいと私が思う歌を一つあげておきます。

・馬方や荷持ち雲助あなどるな同じ浮世に同じ世渡り
 (馬をひいて旅人と荷物を運ぶ人、旅人の荷物をかついで運ぶ人、駕籠に旅人を乗せて運ぶ人などを軽蔑してはいけない、どんな職業の人も、同じこの世の中で生活して生きているのだから。)

                                                        講師 西村 修一

文化女子大学 現代文化学部 国際文化学科のHPはこちら
[PR]
by bwukokusai | 2010-03-30 16:53 | 教員コラム